学芸員だより(谷地森)

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谷地森 秀二
日本大学農獣医学部卒 農学博士

1967年宮城県仙台市生まれ。現在、高知県須崎市に在住。
日本大学で畜産学を学び、同大学院修士課程修了後、アドベンチャーワールドでのシャチ、バンドウイルカ等の飼育、調教、女子栄養大学人間・動物学研究室嘱託助手、栃木県立博物館学芸嘱託員など勤務。一貫して動物と関わり合う業務に従事する。
平成13年4月に高知県へ移住。平成14年9月より「NPO法人四国自然史科学研究センター」設立に参加し、平成15年4月にセンター設立後は副センター長として勤務。平成16年6月より、センター長として平成31年(令和元年)3月まで従事。
令和元年4月より越知町立横倉山自然の森博物館に学芸員として勤務、現在にいたる。
野生動物生態研究者として四国全域を対象に調査活動を展開するとともに、高知県に自然史博物館をつくる活動を続けている。

冬に卵を産むカエル(ニホンアカガエルとヤマアカガエル)

アカガエルの卵塊(らんかい)

「カエルのシーズンが始まりました!」と、寒い2月にいうと不思議に思うかもしれません。カエルというとイネが植えられている田んぼのイメージを持つのではないでしょうか?ところがカエルの中には、まだ雪が降り、氷が張るような季節に卵を産む種類がいます。今回はそんなカエル、アカガエルの仲間を紹介します。

ニホンアカガエル
ヤマアカガエル

高知県にはニホンアカガエルRana japonicaとヤマアカガエルR. ornativentrisという2種類のアカガエルがいます。名前のとおり両方とも体の色は赤茶色で、体長はニホンアカガエルでオスは4~5cm、メスは5~7cm、ヤマアカガエルは少し大きくて、オスは4~6cm、メスは4~8cmくらいです。いつも暮らしているのは林や草地の中で、卵を産むときだけ浅い池や、冬でも水が溜まっている田んぼに集まってきます。水辺に集まってきたオスたちは、夜になるとメスを呼ぶ合唱を始めます。ニホンアカガエルとヤマアカガエルは鳴き声がはっきり違っていて、同じ場所で卵を産むようなことがあってもオスとメスが相手を間違うようなことはありません。お腹に卵が入っているメスがやってくると、オスたちはメスに飛びつきます。1匹のメスに何匹ものオスが飛びつきます。でも、メスはなかなか卵を産んでくれません。メスに飛びついた数匹のオスガエルたちはしばらくすると、1匹、また1匹と離れていきます。そうして最後に残ったオスだけがメスと一緒に卵を産むことができるのです。生み出された卵のかたまり(卵塊といいます)は水を吸って直径15~25cmくらいに膨らみます。一つの卵塊には1500~3000個の卵が入っています。卵を産み終わったカエルたちは、水辺から離れて、また林や草地に帰って暮らします。残された卵は、約2週間でオタマジャクシになります。水の中の植物や小さな動物などを食べて育ちますが、食べ物が少ない場所では共食いもします。いろいろなものを食べながら大きくなり、他の多くの種類のカエルが卵を産む5月の初め頃になると、アカガエルのオタマジャクシは小さなカエルになって、やがて親ガエルたちのいる林や草地に旅立って行きます。

2種類のアカガエルの見分け方

ヤマアカガエルは高知県内の広い範囲にいますが、ニホンアカガエルは高知県内で見つかっている場所は極めて少なく、高知県レッドリスト2018で絶滅危惧Ⅰ類に、2021年には高知県希少野生動物に指定されました。このカエルは、越知町での記録がまだありませんが、ひょっとしたらこれから見つかるかもしれません。ニホンアカガエルを見つけたら、ぜひ博物館へお知らせください。

谷地森秀二:横倉山自然の森博物館学芸員